中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。
症状・所見→四診→証→治法→方剤
瘀血
次の症状のいくつかある方は、乙字湯が良く効く可能性が大きいです。
乙字湯は、清法:熱邪を清解することにより裏熱を消除する治法です。
【中薬大分類】清熱剤…熱を除去する方剤です。清熱・瀉火・解毒・透熱滋陰などの効能により裏熱を改善する方剤です。
【中薬中分類】清臓脇熱剤…臓腑の熱を除去する方剤です。
人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。
●血瘀…血の流れが悪い方が使用します。停滞し変性した非生理的血液の意味で、現代西洋医学的には微小循環系の障害が最も血瘀に近い病態と考えられます。
大まかには静脈系の停滞即ち鬱血に相当しますが、血液粘稠度の増大、凝固亢進、血栓、癒着、繊維化、増殖性病変、瘢痕、血腫などの様々な病態が含まれます。
また、紫斑・皮下点状出血や血管内の凝血(凍瘡など)、DICのような血管内凝固亢進にひき続く出血も血瘀と判断されています。
●水液停滞…余分な水があまっている方が使用します。津液の停滞のことで、西洋医学的には細胞内液・組織液・リンパ液などが、主として組織間・消化管内・体腔内に異常に停滞したことを意味します。
中医学では湿・痰飲・水腫と呼ぶのが一般的で、日本では水毒ともいわれます。
【気血津・臓腑証】
痔核の脱出・痔出血・脱肛・血熱(じかくのだっしゅつ・じしゅっけつ・だっこう・けつねつ)…痔核の脱出・脱肛・痔出血に対して作られた処方で、昇提の柴胡・升麻によって支持組織の緊張を高め、止痙・止痛の当帰・炙甘草によって肛門部の痙攣(けいれん)を緩めて脱出を還納し、黄ക・大黄で止血し、清熱薬によって消炎し炎症性腫脹を改善する、処方構成です。
さらに、清熱瀉火・解毒の薬物を活血の当帰によって全身にめぐらせる配合(「薬効を血分に引き入れる」と表現する)ことから、熱証一般に用いることも応用のひとつです。陰部の掻痒に効果があることが経験的にわかっていますが、陰部のみでなく全身各所の血熱の発疹・掻痒などに用いる価値があります。
●中医学の基礎を知りたい方は、次のページを参照ください。
五臓(ごぞう)
気・血・津液・精
弁証論治・事典
【証(病機)】大腸実熱(だいちょうじつねつ)
【中医学効能(治法)】 升提・緩急・清熱化湿・止痛
【用語の説明】(term)
清熱化湿法(せいねつけしつほう) »…寒涼性の生薬を用い、湿や熱邪、発熱・嘔吐・下痢・尿不利・腹脹を治します。
止痛(しつう) »…痛みを止めることです。
大腸(だいちょう) »…六腑の一つで、水分を吸収し残りを大便として排出する機能の部分です。
実熱(じつねつ) »…外からの熱邪の侵襲、ストレス、飲食の不摂生による熱の発生などの症候です。(実火)
証(症状・体質)判定を望む方は
証判定メニュー
※この判定のために、AI(人工知能)のエキスパート・システムを構築しました。
●痔疾(出血、脱肛、裂傷、痔核)
●胸脇苦満
●虚証ではない
【舌診】(tongue) やや乾燥、黄苔をみとめます。
【脈診】(pulse) 弦滑、あるいは弦です。
【腹診】(abdomen) 心窩部(しんかぶ)、季肋部(きろくぶ)に抵抗圧痛があります(胸脇苦満)。
病症症状 | 合 方 | 備 考 |
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痔に瘀血を伴う場合 |
乙字湯+桂枝茯苓丸 |
|
便秘が強い場合 |
乙字湯+大黄 |
|
炎症性腫脹が強い場合 |
乙字湯+麻杏甘石湯 乙字湯+五虎湯 乙字湯+越婢加朮湯 |
消炎性利水剤 |
鬱血(うっけつ)が強い場合 |
乙字湯+桂枝茯苓丸 |
|
疼痛・肛門部の痙攣(けいれん)が強い場合 |
乙字湯+芍薬甘草湯 |
|
還納が容易で習慣性脱紅の場合 |
乙字湯+補中益気湯 |
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食前または食間に服用してください。
食間とは…食後2~3時間を指します。
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
お湯で溶かしてから、ゆったりした気分で飲むとよいでしょう。むかつくときは、水で飲んでもかまいません。
乙字湯の構成生薬は、下記の6種類です。そのうち、柴胡、黄ごん、大黄、甘草などは、炎症をしずめ痛みをやわらげる働きをします。大黄には、便通をつける作用もあります。また、当帰には補血作用があり、升麻は痔核や脱肛によいといわれます。
組成成分 |
1.柴胡・升麻は、平滑筋や肛門支持組織の緊張を強め、脱出した肛門を正常位に復させます(升提)。
2.甘草(炙甘草)・当帰は、鎮痙作用をもち、収縮した肛囲筋を緩め、脱出した肛門の還納を容易にします(止痙)。
3.当帰は、うっ血を改善し(活血)、黄芩は充血を緩解します(涼血)。
4.柴胡・升麻・黄芩・大黄は、消炎に働きます(清熱瀉火)。
5.黄芩・大黄は、炎症性滲出を抑制します(清熱化湿)。
6、大黄は瀉下作用により、当帰は潤性成分による潤腸作用により、糞便の排出を促します。
7.臨床的に、陰部の痒みに著効があります。
(補足)
本方は、「升提」と「止痙」を組み合わせた処方で、脱肛(弛緩)と周辺部の収縮性絞扼がみられるものに適応します。
柴胡・黄苓の組み合わせが基礎になっているので、一応柴胡剤の一つに数えることができ、大黄が入っているので実証向き、すなわち大柴胡湯の系統の方剤と見ることができます。しかし一面、当帰・甘草のような補性薬も入っているので、著しい実証向きとは言い難いです。
この方剤は、もともと痔や脱肛の薬としてつくられたもので、升麻は引き上げる作用、当帰は痔出血に対して補血を目的として組み入れられたものと考えられます。
生薬名(herb name) | 薬量(quantity) | 君臣佐使(role) | 効能1 | 効能2 | 効能3 | 効能4 | 効能5 | 効能6 | 大分類 | 中分類 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
柴胡 » | 5 |
清熱瀉火 |
(利胆) |
升提 |
解表剤 |
辛涼解表薬 |
||||
升麻 » | 1.5 |
清熱瀉火 |
清熱解毒 |
升提 |
解表剤 |
辛涼解表薬 |
||||
黄芩 » | 3 |
清熱瀉火 |
清熱涼血 |
清熱解毒 |
(利胆) |
清熱剤 |
清熱燥湿薬 |
|||
大黄 » | 1 |
使薬 |
清熱瀉火 |
清熱涼血 |
化湿 |
(利胆) |
瀉下 |
瀉下剤 |
攻下薬 |
|
当帰 » | 6 |
使薬 |
止痙・止痛 |
補血・活血 |
瀉下 |
補虚薬 |
補血薬 |
|||
甘草 » | 2 |
使薬 |
止痙・止痛 |
補虚薬 |
補気薬 |
君薬…方剤配合中の主薬で、症状に対して主に作用する薬物です。
顆粒剤…散剤を粒状に加工して大きさを揃えたもので、サラッとして飛び散りにくく飲みやすい薬です。粒を特殊な皮膜で覆い、溶けやすくしたものもあります。薬が口・食道に貼り付くのを防ぐために、あらかじめ水またはお湯を飲んで口・食道を湿らせてから、口に水またはお湯を含み、薬を口に入れて、水またはお湯と一緒に飲み込むようにしてください。
証が合わなかった場合には、下痢(泄瀉)、腹痛、食欲不振、胃の不快感、吐き気などがまれに現れることがあります。
【妊娠・授乳の注意】
●配合生薬の大黄には、子宮収縮作用や骨盤内臓器の充血作用が認められています。そのため、流早産の原因にもなりかねません。大量でなければまず心配ないのですが、妊娠中の服用については医師とよく相談してください。