寒虚証の方の胸背痛(狭心症、肋間神経痛など)
中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。
次の症状のいくつかある方は、当帰湯が良く効く可能性が大きいです。
当帰湯は、補法:気血陰陽あるいは臓腑の虚損を補養する治法です。
【中薬大分類】温裏(補陽)剤…体内を温める方剤です。即ち、裏寒を改善する方剤です。
【中薬中分類】温中散寒剤…中焦の冷え(裏寒)に用いる方剤です。中焦脾胃の陽気が虚衰して、運化と昇陽が不足し、腹痛・腹満・食欲不振・口渇がない・下痢・悪心・嘔吐・舌苔が白滑・脈が沈細または沈遅の症候がみられます。
人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。
●気虚…氣が不足している方が使用します。氣の作用の不足で、全身の機能・代謝・抵抗力の低下や興奮性の低下などに伴う症候を現します。
疲れやすい、元気が無い、活力低下などを特徴とします。
●血虚…血が不足している方が使用します。血の濡養(栄養・滋潤)作用の不足による症候で、広義での栄養不良状態に相当します。
皮膚につやがない、爪の色が悪い、頭のふらつき、目がかすむ、しびれ感などの症状を呈します。
●水液停滞…余分な水があまっている方が使用します。津液の停滞のことで、西洋医学的には細胞内液・組織液・リンパ液などが、主として組織間・消化管内・体腔内に異常に停滞したことを意味します。
中医学では湿・痰飲・水腫と呼ぶのが一般的で、日本では水毒ともいわれます。
【気血津・臓腑証】
気血両虚の臓腑・経絡の中寒(きけつりょうきょのぞうふ・けいらくのちゅうかん)…散寒薬と止痛・止痛の薬物を主体とし補気健脾薬と補血薬が配合されており、気血両虚のものの実寒に適しています。温中散寒が主ですが温経散寒にも働くので、臓腑の中寒にも経絡の中寒にも使用できます。乾姜・蜀淑・人参の配合は大建中湯(去膠飴)で、桂皮(桂枝)・生姜・白苔・災甘草の配合は小建中湯(去膠飴・大裏)ですから、大建中湯と小建中湯の合方(中建中湯とも呼ばれる)とほぼ同じ効能をもち、寒冷によるけいれん性・拘縮性のはげしい疼痛に有効です(本方の使用目標として「背部に放散する惨痛」があげられていますが、とくにこだわる必要はないです))。また、当帰・黄耆の配合があるので帰着建中湯と同様の効能もそなえており、白苛・当帰には調経の働きがあるので月経痛にも応用できます。さらに、理気の半夏・厚朴の配合があるので、腹満や悪心・嘔吐をともなう場合にも効果があります。寒証全般に広く用いると良いです。
●中医学の基礎を知りたい方は、次のページを参照ください。
五臓(ごぞう)
気・血・津液・精
弁証論治・事典
【証(病機)】血虚兼寒・虚血相搏(けっきょけんかん・きょけつそうはく)
【中医学効能(治法)】 補血養血・温中散寒・理気化痰・温経養血・柔肝止痛
【用語の説明】(term)
補血(ほけつ) »…血を補うことです。=益血、養血。
養血(ようけつ) »…血を増やすことです。
温中(おんちゅう) »…中焦=脾胃を温めることです。
散寒(さんかん) »…寒さの邪気を追い出すことです。
理気(りき) »…理気:気の流れを良くすることです。気(氣)を正常に巡らせ機能を回復する治療法です。
化痰(けたん) »…痰を除くことです。
温経(うんけい) »…経脈を温通することを指します。
温経(おんけい) »…経絡を温めることです。
柔肝(じゅうかん) »…肝の機能を高めることです。肝血を補い、肝気を伸びやかにし回復させることです。
止痛(しつう) »…痛みを止めることです。
証(症状・体質)判定を望む方は
証判定メニュー
※この判定のために、AI(人工知能)のエキスパート・システムを構築しました。
●冷え症
●背や肩に放散する胸腹痛
●心下痞
【舌診】(tongue) 淡白で湿潤し、無苔あるいは薄い白苔を見ます。
【脈診】(pulse) 沈細弱です。
【腹診】(abdomen) 腹部膨満感があります。
食前または食間に服用してください。
食間とは…食後2~3時間を指します。
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
お湯で溶かしてから、ゆったりした気分で飲むとよいでしょう。むかつくときは、水で飲んでもかまいません。
当帰湯の構成生薬は下記の10種類です。主薬の当帰には、血行をよくして貧血症状を改善し、体をあたためる作用があります。
組成成分次図をクリックすると各生薬の詳細説明にリンクします。 |
本方剤の主薬は当帰と見るべきですが、その基本をなしているものは、桂枝湯(桂枝加芍薬湯)です。ただし、大棗は除かれ、生姜はより温性の強い乾姜に代えられています。
桂枝加芍薬湯に当帰と黄耆を加えたもの(膠飴を加えることもある)は帰耆建中湯といい、小建中湯を用いるべき場合で、さらに貧血や盗汗のある場合に用いますが、本方剤中にもそれがやや変形され1た形で入っていると見てよいです。
蜀椒・乾姜・人参は大建中湯から膠飴を去ったものに相当しますが、大建中湯は腹部が軟弱無力で冷えのある人の、堪え難い腹痛に用いられる方剤ですから、帰耆建中湯と合わせ考えると、貧血や盗汗のある冷え症の虚弱者の激しい痛みに良効ある方剤と見ることができます。
これに半夏厚朴湯の主薬である半夏と厚朴が加えられたものが本方剤ですが、半夏・厚朴はともに降作用が強いことから、痛みによるイライラを鎮静させる作用の強い方剤と言うことができます。したがって帰耆建中湯や大建中湯の痛みの対象は、主として腹部であったが、本方剤の痛みの対象はむしろ胸背部であり、胸背部の激痛を下に引き下げ、落ちつかせるような効果があります。