打撲、捻挫(ねんざ)、関節炎の腫れや痛みを取り去る漢方薬
身体や心がストレスを受けると気の流れが悪くなって滞り、気滞体質に陥ります。のどが詰まったり、おなかや胸が張るといった症状のほか、眠れない、怒りっぽくなるといった精神的な不調が現れやすくなります。
ゆっくり休養をとって、ストレスを上手に発散すれば、気の巡りはよくなります。また、薬味やハーブ、スパイスには、気の流れを促す効果があるのでおすすめです。
なお、気滞の状態を放置していると、気とともに体内を巡る血と津液の流れも悪くなりがち。早めに対処しましょう。
「気」のめぐりの滞りを改善する「理気作用」をもつ食材の代表が、香り野菜です。春菊、三つ葉、せり、セロリ、パセリなどのすっきりした香りのある野菜のことで、その香りの精油成分に気の流れをよくしてストレスを解消するはたらきがあります。ただし、長時間火にかけすぎると、大切な香り成分がとんでしまうので、料理の最後に加えてさっと加熱するなど工夫してください。香り野菜のなかでもセロリは葉に血圧を下げる効果があるといわれ、血圧が高い気滞の人は葉も捨てずに料理に使うとよいでしょう。
また、気の流れをつかさどる臓腑「肝」を元気づけるのは、五味でいうと「酸味」になります。かんきつ類、梅干し、黒酢などのすっぱい食材は、肝のはたらきを高めて、気滞を改善してくれます。
ひと口に気滞体質といっても、症状は多岐にわたります。ですから気滞の食養生では、それぞれの症状によって使う食材をある程度選ぶ必要があります。
基本的には「陰虚」と同様で、「平性」「涼性」の食材で体の熱を冷まします。なかでも、イライラして赤ら顔の人は、とくに「辛味」や「熱性」の強い食材を避けなければなりません。
また、おなかが張ってガスやゲップが多い人は、ガスが発生しやすいいもや豆を多く食べないほうがよいでしょう。血圧が高い人は、血圧を下げるはたらきのあるセロリの葉や、苦うりがおすすめです。片頭痛には菊花、目の疲れにはくこの実が効きます。
●濃い味(強すぎる「甘味」「鹸味」)は控えめにしましょう。
●イライラ、赤ら顔、頭痛のあるときは、「辛味」「熱性」のものを控えましょう。
●ガスとゲップの多い人はいも類、豆類を控えめにしましょう。
●唐辛子、にんにく、さつまいも、豆類、ねぎは、なるべく避けましょう。
●気になる不調を自分で手軽にケアする方法として、おすすめなのが『ツボ』(経穴)です。
数千年の歴史を持つ中医学(東洋医学)の治療法です。
WHO(世界保健機関)の主導でツボの名称統一を行うなど、最近は世界的にも関心が高まっている治療法です。
「お茶で一服する」「トイレに立つ」といったタイミングでツボを押すことを、ぜひ習慣化しましよう。その場で不調を解消できるだけでなく、病気への抵抗力や免疫力を日々、高めていくことが可能です。
「気」のめぐりを整える作用があり、イライラを落ち着かせる即効ツボです。
身体や心がストレスを受けると気の流れが悪くなって滞り、気滞体質に陥ります。のどが詰まったり、おなかや胸が張るといった症状のほか、眠れない、怒りっぽくなるといった精神的な不調が現れやすくなります。
ゆっくり休養をとって、ストレスを上手に発散すれば、気の巡りはよくなります。また、薬味やハーブ、スパイスには、気の流れを促す効果があるのでおすすめです。
なお、気滞の状態を放置していると、気とともに体内を巡る血と津液の流れも悪くなりがち。早めに対処しましょう。
●世界の伝統医学の中でも、最も理論体系が整い、豊富な治療手段を備え、長い経験の蓄積があり、実用性の高いのが中医学(東洋医学)です。
この医学は病気の治療ばかりでなく、養生思想も内容が豊かで、病気の予防や健康増進にも活用できます。
その大きな特徴は、一人一人に合わせたやさしい眼差しで、各個人の体質を見極め、体質や体調に合った養生や生活改善を提案することです。
自律神経のバランスをととのえるための生活改善が求められます。たとえば「朝起きて戸外の空気を胸いっぱいに吸い込み10回深呼吸」を数日続けただけで、精神状態はずいぶん落ち着きます。
何か趣味をもち、それを心から楽しんでリラックスする時間をもつのもよいでしょう。ゆっくりと過ごす時間を作ることも必要です。
また、気の流れをつかさどる肝のはたらきをよくすることも大切。肝を傷める大量の飲酒などは、極力避けるようにします。
中医学では、食材がもつ気の流れをよくする力を「理気作用」といいます。すっきりとするような香りのよい野菜やかんきつ類、および酸味のある食べものは、いずれも肝のはたらきをよくする作用があり、理気作用もあります。積極的にとるようにします。
「~しなくてはいけない」というルールはできるだけ作らず、気ままにのんびり過ごすのが一番です。
週末にまとめてリラックスタイムをとるよりも、毎日のスケジュールに「自分の時間」を加えた方が効果的です。
身体を動かしたり、歌を歌ったり、おしゃべりを楽しむなど、発散しながらストレスを解消できる方法も見つけておくとよいでしょう。
打撲は、昔から打ち身といわれ、何かにぶつかった、転落した、転倒した、などというときに起こります。また、ねんざは関節が本来動ける範囲を超えて曲げられたり、伸ばされたりしたとき、関節を支えている組織(靭帯や関節包など)に損傷が起こった状態です。治打撲一方は、こうした打ち身やねんざの腫れ、痛みを、より早く治すために用いられます。ただし、治打撲一方の薬の性質は温性ですから、用いるタイミングが重要です。
例えば打撲した直後は、患部の皮膚下に流れる毛細血管が切れ(内出血状態)、それを修復しようとそこに血液が集まってくるため、痛みとともに患部は熱をおびて腫れてきます。したがって、最初は冷やすことが何より重要です。症状によっても異なりますが、通常1~2日間はしっかり冷やし、2~3日後から治打撲一方を服用するとよいでしょう。
治打撲一方は、各種婦人科系疾患にも広く用いられ、「血を和す」と表現される血剤の川骨と、「骨落(骨の痛み)を去る」といわれている撲漱を主薬としています。
そこに体を温め、血流促進作用がある桂枝と丁子が加わり、全体で温性の駆瘀血剤を構成しています。つまり、冷やすことで滞ってしまった血液の流れをもとどおりにし、血栓をつくることなく修復してくれるのです。
治打撲一方は、もともとは江戸時代の京都の漢方医・香川修庵が著した『医事説約』に掲載されている日本でつくられた漢方薬です。
その本の中に「久しきものは附子を加える」というくだりがあります。若いころに打撲やねんざを起こし、その後10年以上経ってから再び痛み出したという例はよくあります。ここでいう「久しきもの」とは古傷を指し、数年前、もしくは数十年前の後遺症が現れた場合、または慢性化して長引いている場合に「治打撲一方に附子を加えて用いなさい」と述べているのです。
血管拡張・肝機能増進作用のある附子が加えられることで、体内を温め、手足の冷えや水分代謝を正常に戻し、長い間ほうっておかれた患部を完治させるのです。
それは、東京に大雪が降り積もった年のことでした。50歳代の女性が雪上を歩いていて転んでしまい、手を打撲してしまいました。病院に通っても痛みが取れなかったので、漢方の専門家を訪ねたところ、治打撲一方を勧められたのです。
痛みは、10日間ほど飲むと治ったそうですが、しばらくして「あの薬をもう一度ください」と女性が再び訪ねてきました。専門家が「今度はどこを打撲したのですか」とたずねると、「あの薬を飲んでいると髪の毛が生えてきたんです」と言うのです。髪の毛は女性ホルモンに左右されるといわれていますが、50代に入ると更年期障害や閉経など、ホルモンバランスが崩れるため、髪の毛の成長にも悪影響を及ぼします。加えて寒い季節だったため、冷えの影響もあり、彼女は瘀血状態になっていたと考えられます。そのため、病院に通っても打撲の痛みがなかなか取れなかったのです。
このケースは、温めて瘀血を改善する治打撲一方が、血行を促し、患部の痛みを取るだけでなく、冷えも解消しながら全身のバランスを調えた結果、髪が生えてきたと思われます。西洋薬とは異なる、体全体を調整する漢方薬の力といえるでしょう。