不安定な精神の高ぶりを鎮める甘い漢方の良薬。
中医学(漢方)の治療目的は病邪を取り除き、病因を消し去り、陰陽のバランス(balance)の乱れを正し、相関する臓腑の生理機能を調和・回復させることです。 中医学(漢方)の特徴は、身体全体を診るということです。 身体全体の調子(バランス)を整え、病気を治していきます。 ですから、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も診断しなければなりません。 このときの身体の状態や体質をあらわすのが証(しょう)(constitution)という概念です。 この考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的です。 中医学(漢方)の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき人を診るという、その考え方にあります。
症状・所見→四診→証→治法→方剤
心血虚
心脾気血両虚(心血虚+脾気虚)
次の症状のいくつかある方は、甘麦大棗湯が良く効く可能性が大きいです。
【中薬大分類】安神剤…精神を安寧させる方剤です。重鎮安神・滋養安神の薬物を主体にして安神(精神安定)の効能を現す方剤です。
【中薬中分類】滋養安神剤…精神を滋養して安寧させる方剤です。陰血不足による虚陽偏亢で、焦燥・不安・動悸・不眠・易醒・多夢・盗汗(寝汗)・健忘・舌質が紅絳・少苔などの時に使用します。
人体の生命を支える要素として、氣(qi)・血(blood)・津液(body fluid)の3つがあります。
●血虚…血が不足している方が使用します。血の濡養(栄養・滋潤)作用の不足による症候で、広義での栄養不良状態に相当します。
皮膚につやがない、爪の色が悪い、頭のふらつき、目がかすむ、しびれ感などの症状を呈します。
【気血津・臓腑証】
心血虚(しんけつきょ)…適応する病態は「ヒステリー」に相当しますが、不安感・悲哀感・焦躁感・不眠あるいは浅眠・多夢が主体のものによく、いらいら・怒りっぽい方には適しません。
目標のひとつに「あくび」がありますが、胃陽不足による症候と考えられて、大棗・炙甘草によって改善されるものです。
大棗・炙甘草は止痛に働くので痙攣(、けいれん)にもある程度の効果があります。女性のみでなく男性にも用いてよく、小児のむずかり・夜泣きにも奏効します。
●中医学の基礎を知りたい方は、次のページを参照ください。
五臓(ごぞう)
気・血・津液・精
弁証論治・事典
【証(病機)】心血虚(しんけつきょ)
【中医学効能(治法)】 養心安神・健脾緩中・補血安神
【用語の説明】(term)
養心安神法(ようしんあんじんほう) »…心の陰血が不足して起こる心神不安の治療法です。
健脾(けんぴ) »…脾の働きです。脾胃の機能を正常にする治療法です。
補血(ほけつ) »…血を補うことです。=益血、養血。
血虚(けっきょ) »…体を栄養する血が不足した状態です。貧血などで栄養成分が不足した状態です。顔色不良、口舌が淡白、爪・毛髪につやがない、ふらつき、視力減退などがあります。
心血虚・心陰虚(しんけっきょしんいんきょ) »…心血虚・心陰虚;心の陰液の不足による症候で、主に精神不安があり、心拍動の異常があり、一般的な血虚・陰虚の症候が見られます。中枢の抑制過程の低下・自律神経系の過亢進・心筋の代謝異常などによる症候と考えられます。
証(症状・体質)判定を望む方は
証判定メニュー
※この判定のために、AI(人工知能)のエキスパート・システムを構築しました。
●著しい神経興奮
●痙攣、腹皮攣急(腹直筋は緊張)
●あくびを頻発
【舌診】(tongue) 淡紅、乾湿中間、時に微白苔です。
【脈診】(pulse) やや弱で数です。
【腹診】(abdomen) 両側の腹直筋が張って板のように硬くなっています。特に右側の腹直筋の攣急があります。
病症症状 | 合方 | 備考 |
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明らかな血虚が見られる場合 |
甘麦大棗湯+四物湯 甘麦大棗湯+芎帰膠艾湯 |
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気虚を伴う場合 |
甘麦大棗湯+補中益気湯 甘麦大棗湯+帰脾湯 |
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肝欝を伴う場合 |
甘麦大棗湯+四逆散 |
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腹満が生じやすい方の場合 |
甘麦大棗湯+香蘇散 甘麦大棗湯+半夏厚朴湯 |
理気を主体とする方剤と合方すると良い |
食前または食間に服用してください。
食間とは…食後2~3時間を指します。
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
お湯で溶かしてから、ゆったりした気分で飲むとよいでしょう。むかつくときは、水で飲んでもかまいません。
甘麦大棗湯には、緩和作用をもつ甘草のほか、小麦と大棗の3種類が配合されています。
組成成分 |
構成生薬は小麦とナツメの実と醤油の味(甘味)付けに使う甘草の3種で、こんなものが薬になるのかと驚くような処方内容です。
しかし、うまく使うと確かに著効を示すことがあり、中国人の好んで用いる「医食同源」、「薬食同源」という言葉が納得される方剤です。この方剤の意味は、小麦と大棗の鎮静作用(いずれも降性で小麦は涼性である)と甘草の緩和作用が組み合わさって、一つ一つでは薬性とは言い難いほどの作用が強化されて、強い薬性を発揮するのだと見ることができます。甘草・小麦・大棗はいずれも収斂性と補性・潤性をもっており、これが降性および小麦の涼性と結び付いて、興奮性の方に対する鎮静効果を充分に発揮します。