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はじめに

オンライン医療を利用することで、従来対面または書面で実施されていた医療サービスについて、患者が医療機関等に足を運ばずに実現することが可能となります。

最近は、新型コロナウイルス問題により、このようなオンライン医療が急激に脚光を浴びています。

オンライン医療には、
①オンライン診療(医師による診療行為のオンライン化)
②オンライン服薬指導(薬剤師による服薬指導のオンライン化)
③電子処方箋(処方箋の電子化)という3つの要素がある
オンライン医療を可能とするためには、これらの要素を押さえることが重要となります。 ペン


1.オンライン診療

従来、患者の居宅等との間の遠隔診療については、無診療治療等の禁止を定める医師法20条の規定から、原則として診察は対面診療であることと解されていました(いわゆる「対面診療の原則」)。

しかし、厚生労働省通知の発出等により徐々に規制緩和され、現在では、厚生労働省が策定した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン診療指針」といいます)により限定的な状況下におけるオンライン診療が容認されており、さらに、令和2年(2020年)4月10日には、新型コロナウイルスの全国的な蔓延を踏まえて、厚生労働省医政局医事課、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(以下「本0410事務連絡」といいます)が発出され、オンライン診療指針では原則として認められていなかった初診からのオンライン診療が認められるなど、オンライン診療を保険診療として利用できる範囲が拡大されています。

●令和3年(2021年)6月9日読売新聞記事

初診からオンライン診療、来年度から恒久化…かかりつけ医以外も一部認める

河野行政・規制改革相は8日の記者会見で、初診からのオンライン診療を来年度から恒久化すると発表した。過去に受診歴のある、かかりつけ医を原則とする。かかりつけ医以外でも健康診断の結果などで患者の状態を把握できる場合は認める。

月内に閣議決定する。

河野行革相 かかりつけ医以外でも一部認めたのは、かかりつけ医がいなかったり、かかりつけ医がオンライン診療を実施していなかったりする場合があるためだ。

オンラインでの服薬指導については、薬剤師の判断で初回から可能とし、介護施設に居住する患者にも実施できるようにする。

厚生労働省によると、初診からオンライン診療に対応できる医療機関は全体の6・5%(4月末現在)。対面診療よりも診療報酬が低いことが一因とされ、厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)が引き上げを検討する。 電子処方箋の導入状況 ペン


2.オンライン服薬指導

薬剤師法では、薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売または授与の目的で調剤したときは、患者または現にその看護にあたっている者に対し、必要な情報を提供し、および必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならないとする、いわゆる服薬指導に関する規定が定められています(同法25条の2)。

加えて、令和2年(2020年)9月における改正法施行前の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」といいます)には、薬局開設者は、薬剤師に、対面かつ書面を用いた服薬指導を行わせなければならないとの定めがあり(改正前薬機法9条の3第1項)、原則として、医薬品の交付を受ける際には、薬局にて薬剤師による服薬指導を対面で受けることが求められていました。

ところが、平成28年(2016年)9月に改正された国家戦略特別区域法及び厚生労働省関係国家戦略特別区域法施行規則において、上記の対面による服薬指導の義務に対する特例として、国家戦略特区における遠隔服薬指導が初めて可能となりました。

平成30年には、国家戦略特区の愛知県、福岡市および兵庫県養父市において、初の遠隔服薬指導薬局が認定されており、令和元年(2019年)には、同じく国家戦略特区の千葉市においても遠隔服薬指導が実施されています。

また、オンライン診療と同様に、本0410事務連絡において、電話や情報通信機器を用いた遠隔での服薬指導が(国家戦略特区に限らず)全国的に認められました。

これに加えて、令和2年(2020年)9月1日に施行された改正薬機法9条の3第1項により、法律上もテレビ電話等を用いた遠隔での服薬指導が可能となりました(なお、本0410事務連絡と改正薬機法では、オンライン服薬指導が認められる要件に違いがあります)。

ご利用の流れ

2.1 医療機関の受診:

以下の2つの方法があります。

①病院やクリニックに直接行き、対面での診察を受けます。

②オンライン診療アプリ(無料)※を使いオンライン診療、オンライン服薬指導を受けお薬を配送してもらいます。

※オンライン診療アプリご利用の場合配送料は患者様負担になります。

2.2 薬局へ処方せんを送る(対面での診察を受けられた方のみ):

以下の2つの方法があります。

①直接薬局へ処方せんをお持ちいただき、ご自宅でビデオ通話によるオンライン服薬指導を受けていただきます。その後、お薬を配送いたします

メリット:処方せんを置いて帰るだけなので、薬局での待ち時間がなくなります。

②処方せんの写真を撮り、LINEで薬局へ送信してください。(LINEお友達登録が便利です。)

パターン1:お薬のご用意ができましたら、患者様にLINEで通知が届きます。その後、薬局に処方せんをお持ちいただき、お薬をお受け取りください。

パターン2:ご自宅でビデオ通話によるオンライン服薬指導を受けていただきます。その後に、お薬を配送いたします。

※お薬の中に返信用封筒を同封しております。処方せんを薬局にお送りください。

ご準備いただくもの

スマートフォン、パソコン、タブレット等ビデオ通話※が可能な機器、クレジットカード
※現在、お電話のみの診察は法律により認められておりません。 ペン


3.電子処方箋

電子処方箋(でんししょほうせん)とは、これまで紙で発行していた処方箋を電子化したものです。

電子処方箋 患者さんが電子処方箋を選択し、医師・歯科医師・薬剤師が患者さんのお薬情報を参照することに対して、同意をすることで、複数の医療機関・薬局をまたがる過去のお薬情報にもとづいた医療を受けられるようになります。

電子処方箋は、オンライン資格確認等システムで、患者さんの同意のもと、全国の医療機関・薬局における過去3年間の薬剤情報と、直近での処方・調剤結果を参照できるようになります。

医療機関は処方箋データを「電子処方箋管理サービス」に登録し、薬局はこの登録されたデータを基に患者さんに必要なお薬を調剤するという仕組みになります。

厚生労働省によれば、電子処方箋は2023年1月からの利用を予定しています。

処方箋についても、医師法22条に定める医師の処方箋交付義務を根拠に、書面での処方箋交付が原則とされてきましたが、厚生労働省は、平成28年3月に関連省令を改定するとともに「電子処方せんの運用ガイドライン」を策定し、これにより同年4月より電子処方箋が解禁されています(同ガイドラインは令和2年4月に改訂されています)。 ペン 電子処方箋


4.電子処方箋メリットと課題

4.1 電子処方箋のメリット

大きなメリットとして3つ考えられます。

① 病院・薬局間のスムーズな情報連携で、より良い医療サービスを受けられる

処方箋の内容をデジタルデータ化することにより、医療機関の間で情報共有がスムーズになります。

患者さまが複数の医療機関をご利用の場合でも、それぞれの医療機関で処方・調剤された情報を素早く把握し、薬の飲み合わせ等の確認を正確に行えるため、安全性の向上が期待されます。

薬局においては、処方箋が電子化されることで、スタッフによる処方箋内容のシステム入力作業が不要になり、より丁寧な患者さま対応に注力できるようになります。

また、医療機関・薬局間の円滑なコミュニケーションが可能となり、疾患や検査値、副作用やアレルギーなどの情報も連携しやすくなりますので、薬剤師による服薬指導※の質も向上します。

※薬剤師から患者さまに、薬の正しい使用方法や保管方法、注意したい副作用や飲み合わせなどを説明すること。

② お薬代の負担が減る可能性がある

医療機関の間で情報共有がスムーズに行えることで、患者さまが複数の病院を受診している場合に、同じ薬効※の薬がそれぞれの病院で処方されることを防ぐことができます。

そのため、患者さまは薬を重複して受け取らずに済み、お薬代の負担が減る可能性もあります。

※薬の効能のこと。

③ オンライン診療やオンライン服薬指導がより便利に 処方箋が電子データに変わることで、紙のやり取りが不要となり、診察から服薬指導までオンラインで完結します。今よりも、オンライン診療・オンライン服薬指導が利用しやすくなります。

患者さまにとっては、処方箋を紛失してしまうリスクもなくなります。

また、電子処方箋になると、処方箋の保管スペースの削減や、処方箋の偽装や不正の防止、健康保険証の変更に伴う本人確認が容易になるなど、医療機関側にとってもメリットがあります。

4.2 電子処方箋が抱える課題

一見、便利なことしかないようにみえる電子処方箋にも課題があります。それは、マイナンバーカードの普及が前提であるということです。

電子処方箋の運用はオンライン資格確認※の基盤を活用することで進められます。オンライン資格確認では、マイナンバーカードで本人確認を行い、薬剤師は、この本人確認をもって電子処方箋を取得できるようになります。そのため、電子処方箋を使用してメリットを享受するためには、マイナンバーカードを持つことが必須となります。

まずは、生活者の方々がマイナンバーカードを持ち、そしてオンライン資格確認を普及させることが先決なのです。

※資格確認とは、医療機関・薬局の窓口で、患者さまの直近の資格情報など(加入している医療保険や自己負担限度額など)を確認すること。オンライン資格確認は、マイナンバーカードのICチップなどにより、オンラインで資格情報の確認を行うことをいいます。 ペン


5.オンライン診療全体像

5.1 概要

対 象 指針、ガイドライン 概 要
オンライン診療 オンライン服薬指導 電子処方箋
〇 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針
(平成30年(2018年)3月(令和元年7月一部改訂))
平成30年度診療報酬改定でオンライン診療に対する評価が新設されたことを受けて、保険診療および自由診療として実施されるオンライン診療の運用ガイドラインとして定められたもの。オンライン診療に関して、最低限遵守する事項および推奨される事項並びにその考え方を示し、安全性・必要性・有効性の観点から、医師、患者及び関係者が安心できる適切なオンライン診療の普及を推進することを目的に、無診察治療などを禁じる医師法20条や個人情報保護法などとの関係上、オンライン診療の実施にあたって遵守すべき事項が整理されている。
〇 〇 厚生労働省医政局医事課、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて
(令和2年(2020年)4月10日)
新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることに鑑みた時限的・特例的な対応として、電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導等の取扱いを定めている。
〇 〇 厚生労働省保険局医療課事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その10)
(令和2年(2020年)4月10日)
上記事務連絡に基づき電話や情報通信機器を用いた診療や服薬指導等を実施する場合の診療報酬の取扱いを定めている。
〇 厚生労働省「電子処方箋の運用ガイドライン(第2版)
(令和2年(2020年)4月30日)
地域に電子処方箋に対応した薬局がある場合において、フリーアクセスを確保し、かつ患者が自分自身の処方情報を確認できることを前提として、これまでの処方箋電子化の実証事業の成果等も踏まえ、電子処方箋に係る運用を整理している。


6.海外のオンライン診療

6.1 e-health先進国、エストニア共和国

早くから進んでいた、医療のデジタル化

エストニア国旗 医療分野のデジタル化が進むヨーロッパの国として、デンマークやフィンランドなどがあげられますが、「e-health(情報技術を医療に取り入れ、個々の健康増進をはかる取り組み)」が特に進んでいる国として、バルト海沿岸のエストニア共和国があります。エストニアでは、行政サービスの99%がオンラインで利用できるといわれ、医療分野のデジタル化も早くから行われてきました。

皆さんも一度は使ったことがあるかもしれませんが、無料でビデオ通話ができる「Skype(スカイプ)」も、実はエストニアで開発されたサービスです。

エストニア地図 そんなエストニアでは、2008年に、すべての病院で診断・検診結果を電子的に保管するための医療情報制度「e-health system」が導入されました。

カルテや処方箋情報などがデータとして保管され、国民一人ひとりの電子身分証明証(electronic ID)の番号と紐づいています。

この電子身分証明証は、日本でいうマイナンバーカードのようなもので、エストニアでは国民の98%が所有しています。

保管されたデータは、ポータルサイト「e-Patient」で、電子身分証明証を用いて確認することが可能です。

平成20年(2008年)といえば、日本で初めてiPhoneが発売された年ですので、エストニアでは、いかに早い段階で医療サービスの電子化に取り組まれていたのかが分かります。

平成22年(2010年)、電子処方箋を導入

医療情報制度「e-health system」の導入から2年後の2010年、エストニアでは電子処方箋の運用がスタートしました。2019年時点で、エストニア国内で発行される処方箋の99%が電子処方箋だといわれています。

エストニアにおける電子処方箋の仕組みは、医師が発行した電子処方箋が薬局の情報システムにオンラインで連携され、患者さまは、電子身分証明証を提示することで、薬局で薬を受け取ることができるというものです。

2018年12月には、フィンランドの電子処方箋がエストニアでも使用可能になるなど、国境を越える医療システムの構築も進められています。

エストニアでは、2010 年に電子処方箋を導入して以降、急速に普及が進みましたが、その要因の一つに、インターネット上での個人認証を可能とする「国民IDカード」をほぼすべての国民が所有していたことがあげられます。

エストニアの事例をそのまま日本に持ち込むことは難しいですが、今後の日本における医療のオンライン化や電子処方箋の普及を考えるうえでは参考になりそうです。

6.2 医療のデジタル化における、イギリスの取り組み

電子処方箋の仕組みを段階的に構築

イギリス国旗 エストニアと異なり国民ID制度のないイギリスでは、紙の処方箋の電子化に向けて、複数の仕組みを工夫しながら段階的に構築していきました。

一部で紙のやり取りが残るなど、完全な電子化とまでいっていない現状がありますが、イギリス保健省によると、国内の全処方箋の70%がペーパーレスの電子処方箋として発行されています。

それでは、電子処方箋の運用の遷移を大きく3つに分けて見ていきます。

①医師は、国の機関が運営する「電子処方箋サーバー」というシステムに処方情報を登録する一方、これまで通り、患者さまに紙の処方箋を交付。(紙面には、処方情報が登録されたバーコードがついている。) 紙の処方箋が“正本”の位置づけで、薬局では、紙の処方箋でも、バーコードを読み込んで「電子処方箋サーバー」から処方情報を取得しても、いずれの方法でも調剤できる仕組みを構築。

②紙のやり取りをすることなく、オンラインで完結する電子処方箋の仕組みがスタート。医師が「電子処方箋サーバー」に処方情報を登録すると、患者さまが事前に指定した薬局だけが処方情報を取得可能。

③薬局を指定していない患者さまへの対応として、医師から専用のバーコードが付いた紙を渡す仕組みがスタート。患者さまは任意の薬局でそのバーコードを提示することで、お薬を受け取ることができるようになり、紙の処方箋のやり取りをする必要がなくなった。

それぞれ、電子処方箋が普及する速度に差はありますが、制度導入後、電子処方箋の発行を希望される患者さまが多くいらっしゃることで、処方箋の電子化は着実に進んでいます。

それは、処方箋情報を含めた医療データが一元的に管理されることで、患者さまにとって、「過去に飲んだお薬をデータで確認できるようになる」「より正確なデータに基づく診察や服薬指導※を受けることができる」などのメリットがあるからだと考えられます。

※薬剤師から患者さまに、薬の正しい使用方法や保管方法、注意したい副作用や飲み合わせなどを説明すること。

6.3 日本が海外事例から学ぶこと

日本でも2023年1月より電子処方箋が始まります。2022年7月22日に厚生労働省から医療機関にある通知がありました。

それは、「医療機関におけるオンライン資格確認の原則義務化」です。

これにより、すべての医療機関で電子処方箋を取り扱えるようになる未来がぐっと近づきました。

医療機関では、現在、オンライン資格確認※と電子処方箋の導入準備が始まっており、すでに導入が完了している医療機関もあります。(全国の日本調剤の薬局で導入済み)

※資格確認とは、医療機関・薬局の窓口で、患者さまの資格情報(加入している医療保険や自己負担限度額など)を確認すること。オンライン資格確認は、マイナンバーカードのICチップなどにより、オンラインで直近の資格情報の確認を行うことをいいます。

電子処方箋のメリットを享受するには、先のエストニアの例にもあったように、マイナンバーカードが必要となります。

マイナンバーカードをまだ持っていない方は、早めに手続きをしておきましょう。

なお、マイナンバーカードに関しては、「マイナンバーカードを健康保険証として利用するには? 」の記事に記載していますので、こちらもぜひご覧ください。

来る電子処方箋時代に、便利で質の高い医療を受けられるよう、今から準備しておくことが大切です。 ペン


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